全身麻酔で手術を受ける方へ
骨粗鬆症について知ろう!
専門医による解説~その12
はじめに
こんにちは。このページは整形外科専門医の金井による様々な整形外科疾患の解説ページです。元ページの「コツコツグルメ」は、金井が自身の臨床経験から「あったらいいな」と思うサービスを形にしたもので、骨粗鬆症専用の食事サービスです。骨の栄養に興味がある方は是非元ページもご供覧くださいませ。
さて、今回の記事では「全身麻酔で手術を受ける方へ」をテーマに、なるべく分かりやすく解説していきます。
全身麻酔とは
骨折や人工関節や脊椎などある程度規模が大きな手術は、基本的に寝ている間にしないと痛すぎて耐えられません。そこで薬を使って人工的に眠らせて、眠っている間に手術をしよう、というのが全身麻酔です。専門的な評価と管理が必要なため、専門の麻酔科医が行うことがほとんどです。吸わせる吸入麻酔や、点滴する静脈麻酔、鎮痛鎮静のための麻薬、血圧の変動を調整する薬などを使用します。
メリットは本人が手術中の痛みを感じないこと、本人が動かない状態で手術出来ることです。デメリットは強制的に眠る事によるリスクがあること、使用する薬の種類が多いことなどです。後で詳しく説明します。
全身麻酔以外の麻酔は?
俗に部分麻酔と言われます。局所麻酔、腰椎麻酔、伝達麻酔(末梢神経ブロック)が挙げられます。これらは注射によって部分的に痛覚を分からなくしその範囲で手術を行うものです。本人が起きたまま手術することで全身麻酔のリスクを回避するのと、本人と手術中の疎通が取れるのがメリットです。デメリットは、注射薬の量や効かせられる範囲に制限があることです。全身麻酔と併用することもあります。
実際の全身麻酔~手術前
まず手術に先立ち色々術前検査をされるでしょう。採血や尿検査、心電図、胸部レントゲン、呼吸機能検査や心臓超音波検査などです。心臓や肺に異常がないか、糖尿病や腎不全、貧血や凝固異常など手術に支障があるものが隠れていないかをチェックします。結果次第では手術が延期になったり中止になったりします。
入院は少なくとも全身麻酔を行う前日からで、食事や飲水の制限があります。これは麻酔で気持ち悪くなって吐くのを防ぐためです。このあたりは大体どこの病院も共通しているかと思われます。
実際の全身麻酔~手術室で
まずベッドの上で仰向けになり、高濃度な酸素を吸ってから各種薬を使って人工的に眠ります。人工的に眠ると呼吸が止まるので、喉の奥の空気の通り道(気管)に管を通して機械に繋いで呼吸してもらいます。これが人工呼吸器です。手術中は血圧や呼吸の状態などを常に監視しながら適宜薬を使って調整します。手術が終わると薬を少しずつ抜いていき、自分の呼吸が復活したら喉の管を抜いて人工呼吸器を外します。
実際の全身麻酔~手術後
人工的な眠りの影響で術後目覚めてからしばらくはウトウトしていることが多く、数時間は酸素を吸って経過観察が必要です。本人的には術直後は覚えていなくて、気がついたら病室のベッドの上、ということも多いです。人工的な呼吸の影響で気がついた時に喉が痛いことが多いですが、これは通常数日で良くなります。意識がはっきりしてきたら酸素を外し、飲水や食事や薬の内服が可能になります。頭痛や嘔気が出る場合は薬などで対応します。
全身麻酔のリスク~3つのポイント
「血液の流れへの影響」、「空気の流れへの影響」、「投与された薬の処理」です。血液循環への影響で心臓や腎臓や血管に、空気循環への影響で肺と脳に、薬の処理で肝臓に負担がかかります。これらは「全身状態への影響」と呼ばれ特に心臓や肺は持病の程度によっては全身麻酔に耐えられないと判断される場合もあります。
具体的なリスク
「血液循環への影響」では心臓のポンプ力に異常が出る心不全、不整脈、腎不全や尿路感染症、脚の血管が滞り血の塊が形成される血栓症、血管が詰まる心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓などがあります。「空気循環への影響」では呼吸不全や肺炎や低酸素脳症、「薬の処理」で肝不全や薬に対するアレルギーなどが挙げられます。
かのマイケルジャクソン氏は全身麻酔で使う眠り薬を自宅で不適切に使用し、呼吸不全となり亡くなったと言われています。全身麻酔の怖さを教えてくれるエピソードですが、もし彼のそばに経験豊富な麻酔科医と適切な薬剤と人工呼吸器等の機材があったならば、わけなく助かったと思われます。
整形外科手術を受ける際の注意点
その他、整形外科の手術の場合、体位が様々なことが特徴として挙げられます。仰向けで全身麻酔をかけたあと通常は仰向けのまま手術を行うのですが、整形外科の場合背中や腰の手術なら腹ばい、右股関節の手術の場合は左を下にした横向きなど必要な姿勢が様々だからです。眠った後に手術出来る姿勢に移すわけですが、長時間その姿勢なので術後に首や腰が痛かったり下になる身体の部位の皮膚が赤くなったりすることもあります。そこで注意しなければいけないのが「床ずれ(褥瘡)」と「神経麻痺(末梢神経障害)」で、小さなクッション等を駆使して皮膚の保護や神経が圧迫されないように留意します。このあたりは整形外科での全身麻酔独特の注意点と言えます。
全身麻酔が出来ないのはどんな時?
「手術の必要性<全身麻酔リスク」の場合です。ご本人の身体状態や手術の種類によって必要性が様々なこと、高齢であればあるほどリスクは高くなることなどを勘案して総合的に判断します。整形外科医である私の経験上、心肺機能が元々悪すぎる方、弁膜症(大動脈弁狭窄症)がひどい方、以前全身麻酔で問題が生じたことがある方などは麻酔科からストップがかかることが多いです。
高齢者に全身麻酔は危ない?
以前は「80歳以上の方に全身麻酔をかけるのはどうか」という風潮もありましたが、最近は医学も進歩し、元気な高齢者も増え、80歳以上での全身麻酔下手術もかなり増えているように思います。年齢で判断するというより、手術の必要性と自身の身体の状況を良く吟味して主治医の先生と相談するのが良いでしょう。
おわりに
今回の記事は以上です。「全身麻酔で手術を受ける方へ」をテーマになるべく分かりやすく解説しました。少しでも参考になれば幸いです。
最後に手前味噌ですが骨折で手術を受ける方、リカバリー食として「コツコツグルメ」を利用してみるのはいかがでしょうか。低カロリーで高タンパク質、骨だけでなくトレーニング後や減量食にもお勧めです。
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次回は「上腕骨頸部骨折」について解説していこうと思います。
過去記事一覧:
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その1 骨粗鬆症とは
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その2 骨粗鬆症の予防と治療
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その3 骨に必要な栄養素
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その4 栄養療法とエビデンス
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その5 機能性原料と医薬品の違い
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その6 大腿骨近位部骨折
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その7 胸腰椎圧迫骨折
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その8 腰部脊柱管狭窄症
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その9 変形性膝関節症
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その10 橈骨遠位端骨折
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その11 骨折が治るまで
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その12 全身麻酔について
参考文献:
なし