橈骨遠位端骨折について
骨粗鬆症について知ろう!
専門医による解説~その10
はじめに
こんにちは。このページは整形外科専門医の金井による様々な整形外科疾患の解説ページです。元ページの「コツコツグルメ」は、金井が自身の臨床経験から「あったらいいな」と思うサービスを形にしたもので、骨に関する総合的な情報提供サービスです。骨に関して不安や興味がある方は是非元ページもご供覧くださいませ。
さて、今回の記事では「橈骨遠位端骨折」について、なるべく分かりやすく解説していきます。
橈骨遠位端骨折とは
手首(手関節)の骨折です。「手をついて転んだあと手首に激痛」が象徴的なエピソードですね。骨が脆くなった高齢者の骨折では腰椎、股関節に次いで3番目に多い骨折で、この3つを「高齢者三大骨折」と呼んだりします。三大骨折の中で頻度は3番目で最も軽症なため、軽視されがちですが、とても重要な特徴と問題を持っています。
重要な特徴って?
それは「手首は骨が脆くなった人が最初に折る骨である」ということです。年間骨折発生率を研究したデータを見ると、橈骨遠位端骨折は三大骨折の中でも特に「50代、60代での数はNo.1」「女性比率No.1」であることがわかります。すなわち閉経後ホルモンの関係で骨強度が急低下した女性は「手首から折る事が多い」と示唆されるわけです。ちなみに70代80代になると他の二大骨折の数が爆増します。
なんで重要なの?
ポイントは、三大骨折の中で「一番早く起こる」手首の骨折が、「一番軽症である」という点です。橈骨遠位端骨折をきっかけに骨粗鬆症と診断し、適切に治療されればその後起こるはずだった重症な二大骨折を防げるかもしれないのです。このような特徴から私は橈骨遠位端骨折を骨粗鬆症の「スカウト(斥候)骨折」と呼んでいます。
なにが問題なの?
問題は「手首の骨折が骨粗鬆症の診断に繋がっていないこと」です。国内のとある研究によると橈骨遠位端骨折患者のうち実は85%が骨粗鬆症だったのに、治療を受けたのは11%だったというデータもあります。「他の二大骨折に比べて橈骨遠位端骨折は軽視されている」と私が指摘する理由です。
で、治療法は?
手術する方法としない方法があります。骨折の程度、年齢、本人の希望などを考慮して決めます。簡単に言えば「放っておいた時に困った症状が出る可能性が高い」場合や「社会復帰を急ぐ場合」場合に手術が勧められます。手首の骨折は手術する人としない人がざっくり半々くらいです。詳しく説明します。
手術がおすすめの場合
骨折のズレが大きい場合、骨折が手の関節に及ぶ場合、正中神経という神経の障害が出ている場合、年齢が若くその後何十年も使う手の場合、利き手、リハビリを早く進め社会復帰を急ぐ場合です。これらに当てはまらなければ、手術をしない治療でも良いでしょう。
どんな手術をするの?
入院し全身麻酔下での手術です。現在では手首の手のひら側を5-7cm程度切り筋肉や神経を避けて骨の上にプレートを置きスクリューで止める手術が一般的です。子どもの場合や骨が皮膚の外に飛び出る開放骨折など、状況に合わせて他の手術が選択される場合もあります。手術時の固定性に合わせて手首を動かすリハビリ計画を立てます。術後も当て木やサポーターをしばらく続けるケースもあります。
手術しないとどうなる?
腫れが引くまでは当て木をして、1-2週間くらいでギプス包帯を巻いて固めて直します。ギプスは骨折から6-8週間程度で外すのが一般的で、その後手首の動きのリハビリなどを行います。固定期間中の注意点として、「手指はよく動かしておくこと」が重要です。むくみ予防と指が曲がらなくなる「拘縮」を防ぐためです。
手術のリスクは?
一般的な全身麻酔の手術のリスクは、出血、ばい菌が付く感染、手術侵襲を起因とする全身合併症(肺炎や尿路感染症、脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓(エコノミークラスシンドローム)など)です。また骨折手術の場合、骨がきちんとくっつかず痛みが続く偽関節、インプラントトラブル(緩みや破損)などで再手術になることがあります。
ほか手首の手術独自のものでは、動かせる角度が少なくなる可動域制限、正中神経の障害(主に親指を曲げたりする運動神経、小指以外の指や掌の感覚神経)、手指を動かす腱の損傷や断裂などが挙げられます。
手術の後
上肢の骨折では歩行可能なため、数日で退院となるケースが多いでしょう。退院後は骨折の程度や手術中の固定性に応じた計画に基づいて外来リハビリを進めます。動きは元通りというよりは生活に支障ないレベルを目指します。大体術後2~3ヶ月で骨が癒合(くっつくこと)します。手首のインプラントは頻度が高くはないものの長期的に腱断裂などの合併症を起こすこともあるので1年後くらいで抜去を提案されることもあります。
私から伝えたいこと
手首の骨折は比較的軽症で、股関節の骨折などに比べて生活を一変させる力は弱いですが、骨折を連鎖させる骨粗鬆症を発見する上でとても重要な骨折でした。40歳以上でこの骨折をした方は骨粗鬆症の検査を受けることをお勧めします。しっかり骨に良い栄養を摂ることもお忘れ無く。
おわりに
今回の記事は以上です。「橈骨遠位端骨折」についてなるべく分かりやすく解説しました。
次回は「骨折が治るまで」をテーマになるべく分かりやすく解説していこうと思います。
骨折治療は、骨の材料がないと十分な効果が得られません。日々の食事から必要な栄養素(特にカルシウムとビタミンD)をしっかり摂る「骨活」も、治療の土台として欠かせません。
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【免責事項】 本記事の内容は、執筆時点でのガイドラインやエビデンスに基づき作成しておりますが、医学的情報の正確性や安全性を完全に保証するものではありません。 個々の患者様の病状や体質によって適切な治療法は異なります。自己判断での治療中断や変更は行わず、必ず主治医にご相談ください。
参考資料:
- ガイドライン|日本骨粗鬆症学会 Japan Osteoporosis Society (josteo.com)
- 橈骨遠位端骨折診療GL2017_表紙1 – c00393.pdf
- 年間骨折発生率調査
- 当院における橈骨遠位端骨折と骨粗鬆症治療状況
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創業医師 金井 研三(かない けんぞう)
東京生まれ湘南育ちの射手座。
横浜市立大学医学部卒、臨床経験10年超の整形外科専門医。
専門は脊椎外科。急性期病院で多忙な日々を送り研鑽したのち、地域医療に携わる。
地域における超高齢化と骨粗鬆症の増加に強い危機感を抱き、現役医師として働く傍ら、骨粗鬆症予防専門の食品と情報提供サービス「コツコツグルメ」を開発。予防医学×ビジネスに医師が直接コミットする必要性を訴えている。
「食から骨を守る」新しい仕組みづくりを通じて、SDGs目標3『すべての人に健康と福祉を』目標11『住み続けられるまちづくりを』の実現に貢献している。
日本の健康寿命を延ばし、骨折を減らして整形外科医の仕事をなくす――そんな未来を目指して、日々、啓発活動と臨床に取り組んでいる。