骨粗鬆症について知ろう!
専門医による解説~その8
腰部脊柱管狭窄症について
はじめに
こんにちは。このページは整形外科専門医の金井による様々な整形外科疾患の解説ページです。元ページの「コツコツグルメ」は、金井が自身の臨床経験から「あったらいいな」と思うサービスを形にしたもので、骨粗鬆症専用の食事サービスです。骨の栄養に興味がある方は是非元ページもご供覧くださいませ。
今回の記事では「腰部脊柱管狭窄症」について、なるべく分かりやすく解説していきます。
腰部脊柱管狭窄症とは
背骨のケガや経年劣化の結果、背骨に守られている神経の通り道(脊柱管)が圧迫されてしまった状態(狭窄症)です。特に重力が強くかかる腰に多く、腰に起きた脊柱管狭窄症を腰部脊柱管狭窄症と呼びます。腰部とつきますが正体は末梢神経の圧迫ですので、症状は腰痛だけというよりはお尻から脚のしびれや痛み、筋力低下が多いです。俗にいう坐骨神経痛です。重症だと排尿や便通に障害が生じる場合もあります。
治療法は
切らずにみる保存療法と、切る手術療法があります。緊急手術を要する場合や症状が強い場合など一部のケースを除き、最初はリスクの低い飲み薬からはじめ、ダメなら神経に注射を打つ各種ブロック注射、それでもダメなら手術療法という順に治療を進める場合が多いです。
手術が勧められる場合は?
腰椎の手術はリスクも多いので手術がお勧めかどうか考えるのには注意が必要です。分かりやすく言うと大きく2つ、「医者が手術しないとやばいと思い、かつ本人が賛成した場合」か「本人が症状を看過できず手術を希望し、かつ医者が手術は有効だろうと判断した場合」です。詳しく説明します。
医者がやばいと思う場合は?
腰部脊柱管狭窄症によって足が動かないなど明らかで重篤な筋力低下がある時と、排尿できなくなる尿閉や便失禁がある時です。この場合は早く手術をした方が症状の改善率が高いことが知られているため、本人が多少乗り気でなくても手術治療が勧められます。
本人が症状を看過できない場合は?
本人が手術を望んでも医者が有効だと思わなければ手術はするべきではありません。理由は腰痛や坐骨神経痛は病態が様々で、必ずしも腰部脊柱管狭窄症だけが原因とは限らないからです。逆に医者は手術が有効だと思っても、本人が困っていなければ手術は必要ありません。腰部脊柱管狭窄症は放っておいても生命にかかわる病気ではないからです。
大切なのは、手術が必要かどうか専門医とよく相談して決めることです。
どんな手術をするの?
最優先は「神経のレスキュー」です。狭くなった脊柱管の中で神経は骨、椎間板、靭帯などで圧迫されているのでそれらを削り取って空間を広げます。圧迫部位が深い場合は背骨の関節を切り落として神経の周りを広げる必要があることもあります。関節を切り落とされた背骨は不安定になります。
次に「不安定な背骨をスクリュー等で固定」です。腰椎すべり症など手術の前から不安定な時もあれば、前述のように手術中に関節を切り落とし結果的に不安定になる場合もあります。
手術の効果は?
神経の圧迫が原因の腰や脚の痛みの改善を期待します。手術は神経を再生させるものではなく神経の障害進行を止めることと回復に向かう環境を整えるためのものですので、症状の回復は限定的だったり長い時間がかかったりします。手術が得意なのは「のっぴきならない脚の激痛を取ること」であり、「腰痛」や「軽度の脚のしびれ」は一定程度残ることが多いです。よって症状が腰痛だけだったり軽度の脚のしびれのみの方には、あまり手術を勧められません。
手術のリスクって?
一般的な全身麻酔の手術のリスクは、出血、ばい菌が付く感染、手術侵襲を起因とする全身合併症(肺炎や尿路感染症、脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓(エコノミークラスシンドローム)など)です。腰椎の手術はそれらに加えて、神経を期せずして傷つけてしまう神経障害、神経を包む硬膜に穴が開いて髄液が漏れる髄液漏などがあります。スクリューを入れる場合は、インプラントが緩んだり外れたり神経に触ってしまうインプラントトラブルや、固定した部位に隣合う背骨に負担がかかりそこで骨折や新たな脊柱管狭窄症を生じる隣接椎間障害が挙げられます。
リハビリ計画
一般的に背骨のスクリュー固定をしたかどうかで変わります。固定していなければ簡易的なコルセットをつけて歩行リハビリ開始、固定していれば固い特注のコルセットをつけて歩行リハビリ開始です。手術直後は背中から血抜きの管(ドレーン)が出ていますがこれは数日程度で抜き、順調であれば2週間程度で普通に歩けるようになるケースが多いです。特注コルセットは術後3-6か月と長い付き合いになると思ってください。このリハビリ計画に関しては病院によって結構違いがあるかもしれません。
腰椎の手術を受けると車いす生活になる?
たまに患者さんの中に「腰椎の手術を受けると車いす生活になると聞いた」と仰る方がいますが、これはちょっと言い過ぎです。理由は、腰椎手術で扱う神経は「末梢神経」だからです。手術中に期せずして神経を傷つけてしまった場合でも、起こる障害は傷ついた末梢神経の担当エリアに限定的なはずです。半身不随など歩けなくなるような広範囲な麻痺などは腰椎の合併症では基本的に起こりません。
胸椎や頸椎の場合
逆に、胸椎や頸椎など上位の脊椎手術では「中枢神経」である脊髄を扱います。同じ脊椎の手術でも胸椎や頸椎の場合では半身麻痺など重篤な合併症が起こる可能性があり、よりリスクの高い手術になります。ちなみに脳も同様に「中枢神経」です。
腰椎の手術と骨粗鬆症の関係
以前は年齢を理由に手術を避ける事も多かったですが、近年では元気な高齢者が増え80歳や90歳を超えても腰椎手術を受ける方が増えてきました。必然的に骨粗鬆症特有の術後合併症の報告と、その対策の研究が活発化しています。具体的にいうと、骨粗鬆症の方は術後の背骨の骨折やスクリューの緩み、骨癒合不全などが起こるリスクが増えます。「手術の数か月前から骨粗鬆症薬を始めるとスクリューの緩みなどの合併症が減った」という報告もあります。ただ、手術が必要になってから骨粗鬆症に気が付くケースでは、数か月の薬物投与期間を設けることは難しい場合も多いです。骨粗鬆症には先に気が付き、治療が開始されている状態が望ましいわけです。
私から伝えたいこと
腰部脊柱管狭窄症では神経を助ける手術をしたあと削った骨がしっかりと治癒する必要があるので、術後経過に関して骨粗鬆症が密接に関係しています。骨粗鬆症の予防と早期発見が大切です。気になる症状がある方は、お近くの整形外科に相談してみてください。骨粗鬆症の診断がついたら食事や運動だけでなく、投薬もしっかり受けましょう。
おわりに
今回の記事は以上です。骨粗鬆症と関係の深い「腰部脊柱管狭窄症」についてなるべく分かりやすく解説してみました。手前味噌ですがこの手術が必要になる前の骨粗鬆症の予防や治療、手術した後のリカバリー食としても1日1品「コツコツグルメ」をお役立てください。初回限定クーポン「FT20」でお得に試すことが出来ますよ。
次回は有病数脅威の2500万人、「変形性膝関節症」について解説していこうと思います。
過去記事一覧:
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その1 骨粗鬆症について
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その2 骨粗鬆症の予防と治療
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その3 骨に必要な栄養素
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その4 栄養療法とエビデンス
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その5 機能性原料と医薬品の違い
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その6 大腿骨近位部骨折
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その7 胸腰椎圧迫骨折
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その8 腰部脊柱管狭窄症
- 骨粗鬆症について知ろう!専門医による解説~その9 変形性膝関節症
参考資料: